斎藤真理子 / 訳
白水社
2023年1月30日 発行
四六判 / 214頁
独白は混乱とともに終わった。その後、ぴんと張られた太鼓の革を引っかくような息づかいが聞こえてきたが、それは私のもののようだった。午後四時にベッドで目を覚ました私は、私の存在を規定する記憶がすべて消えていることを知った。だが私の中にある海はどこまでも静かだった。あまりに静かでその内容が永遠にわからない、未知の絶望に支配されたような感覚だった。
——Ⅰ / p7より
「あなたはもしかして、そういうものをもう一度企画してみたいと思いませんか?」女が不意に、熱っぽく尋ねた。
「何をですか?」
「ゲリラ公演を」
「そうですね。ああいうものがまだ有効なのかどうか、私はよくわかりません」
——Ⅱ / p136より
ぺ・スアの文体については、多くの言葉が費やされてきた。それはしばしば「当惑させられる文体」と評される。本書にも、独特のリズムで亢進していく異様に長いセンテンス、「外国作家が書いた文章のよう」「翻訳調」といわれる生硬な言葉選び、やや不自然な言い回しといった特徴がよく表れている。
——訳者あとがき / p206より
存在を規定する記憶をすべて失い、<ウル>と名づけられた女性が、混沌の中から意識の底にある感覚を浮上させ、自分が何者であるのかを夢幻的に探っていく三つの物語。
全篇を通して、存在の不安、孤独、愛、性、死などの人間の本質を体感するような謎めいたイメージが横溢し絡み合う。世界と自己をまったく新しく捉え直す文学の挑戦!
(帯文および、白水社のサイトより、抜粋)
[目次]
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
訳者あとがき