著者 / 村上智紀・nagame
A6判 / 108頁
村上智紀さんによる短歌とエッセイ、
nagameさんによる小説を収録
結婚、婚姻が彼にとってどれほどの選択であったのか、容易に手を伸ばせるものであったのか、身を切るような覚悟であったのか、それとも風に吹かれるように自然なことであったのか、私には計りかねるが、私自身が現行の日本における婚姻制度に対して懐疑的、というよりも構造的な悪で、ほとんど憎悪に近い感情を向けながらその不均衡と異性愛規範に乗っ取ったそれにどれだけ心を痛めていようとも、彼のその選択、共に誰かと手を取り生きていくという営みの中の一つの選択に、これはあまりに身も蓋もないが、替えの効かない友人である彼だからこそ、なのかもしれないが、その選択と決断に私は愛と敬意を持って祝福するという選択肢以外持ち合わせていなかった。(原文ママ)
——祈らずにいられなかった
(ポケットに手を突っ込んだまま) / p21より
でもさ、別に、お母さんが一度もわたしを愛してくれなかったとは思ってないんだよね。学校から帰ったとき、庭で薔薇のアブラムシを取ったり雑草を抜いたりしてたお母さんが作業を止めてわたしの顔を見て『おかえり』って言ってくれたことだって、本当なら学校で授業を受けているべき時間に車で海へ連れて行ってくれて、砂丘を歩いたり座り込んで海を眺めてたわたしを何時間も駐車場で待っていてくれたり。そのとき、わたしがそのまま戻らないかもしれないという不安もあっただろうけど、きっと、死なないように願って……祈って、いただろうことも、たぶん、全然、『愛してた』ってことなんだよね。
——北の海で眠りにつくまで / p85より
恐らく、ふたりが同時に正気を保っていられる時間は残りわずかだと、そんな気がした。
だから、出来るだけ多くの作品を残そうと思っている。
それをあなたに読んでほしい。
そして今度は、あなたのことを聞かせてほしい。
そう思っている。
——あとがき(村上智紀) / p104より
[目次]
短歌『evil』/ 村上智紀
エッセイ『祈らずにいられなかった
(ポケットに手を突っ込んだまま)』/ 村上智紀
短歌『texture』/ 村上智紀
短歌『parody』/ 村上智紀
小説『北の海で眠りにつくまで』/nagame
短歌『charm』/ 村上智紀