左右社
2021年3月31日 第1刷発行
四六判変形 / 164頁
——以下、本書所収の短歌より抜粋
暗い星みつづけて溜めたちからで炭酸のペットボトルを開ける
スーパーの名まえはきょうも気の抜けているほうがいい地球のために
全身にくる会いたいという気持ち山ですという山の迫力
ひとつだけ台詞が言える夜のおばけ いい天気だねー おばけは言います
ああよかった。どこにいても月がみえる。悲しみが色めき立つのがわかる。
五週間枯らさなかったもっともっと素敵なものを地獄に送る
すっぽりと月がみずからポケットにもぐってしまう恋に落ちたら
レモンティーの香りとわかるこのホットケーキシロップこの世の限り
谷川由里子さんによる歌集。
月や太陽、雨、空気、星と風など、ことばを持たないはずのものが、確かな存在として、繰り返し登場します。
谷川さんとそうした存在たちは、ときに友人か姉妹のように親密です。
風に「ついてこい」と言い、空気はルビーの耳飾りを見に来てくれて、ビル風を口にほおばり、「月がいちばんポケットに入れたいものだな」と月に聞かせてから眠る——
世界と、こんなふうに対話することができるのだという、驚きと喜びがつまっています。
その、やわらかくも真っすぐな対話のなかに、自分の身をおくことができる、歌集です。
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自分が心を持っていることが、うれしい。そして、誇らしい。愛の疾走感に満ちたこの歌集を読むと、そんな気持ちがこみあげてくる。愛は、会いたいと思う誰かにたいしてだけではなく、山やバックホーをふくむ世界全体にたいして注がれ、そして山やバックホーの側もまた、不思議といのちをもって躍動している。ときめく心が、自分のからだをはみだして外へ外へと踊りだしてゆく。そんな勢いのなかで、一首一首が、ぴちぴちと立ちあげられる口語のリズムによって、ちいさな渦巻きのように動的に輝いているのだ。
「解説 月と散歩/大森静佳」 p.154より
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目次
サワーマッシュ
解説 月と散歩 大森静佳
あとがき