金原瑞人・安納令奈 / 訳
白水社
2022年7月5日 発行
四六判 / 328頁
悲しみは、悲しみとまったく違う形であらわれる。悲しみは悲しみ以外の感情をすべて消し去る。悲しみのせいであたしたち二人は何日も同じシャツを着続け、故人がまだ生きていた日の朝のままでいようとした。悲しみのせいであたしたちは天井から星をはがし、光る星くずを指先にくっつけたままベッドに寝ころんだ。悲しみは怒りっぽく、悲しみは優しかった。
——アニーカ / p219より
イギリスで暮らす対照的なムスリム(イスラム教徒)の家族を襲う悲劇が、われわれには想像もつかない状況で展開します。そして最後には、その悲劇が異文化という壁を大きく揺さぶります。
ここ数年間で出会った翻訳作品のなかで最も衝撃的で、切なく、心を打たれた作品です。
——金原瑞人 / 帯文より
ロンドンで暮らすムスリムの三人きょうだい。
パキスタン系英国人の父親は、子どもたちが幼い頃に家族を捨て、ジハードのためにボスニアに旅立ち、病死。
母親も7年前に死んだ。
末っ子のパーヴェイズはパキスタンの親戚に会いにいくと嘘をつき、シリアのラッカへ向かう。ジハード戦士だった父に憧れて、イスラム国に参加するために。
姉たちはそれぞれに悩みながらも、信念を貫き、あらゆる手段でパーヴェイズを救い出そうとするが——
ギリシャ悲劇『アンティゴネー』に着想を得て、家族の絆と国家の法律の対立を描き、国籍・国境のあやうさを訴えかける長篇小説です。
BBCが選ぶ「わたしたちの世界をつくった小説ベスト100」(過去300年に書かれた英語の小説が対象)の政治・権力・抗議活動部門で10作品に選ばれました。
また、ムスリムの人が西欧社会で生きていく上での多様な生きづらさが具体的に描かれ、登場人物それぞれの視点で実感できることも、大きな魅力となっています。
(白水社ホームページをもとに記載)
[目次]
イスマ
エイモン
パーヴェイズ
アニーカ
カラマット
訳者あとがき