七月堂
2018年3月7日 第1刷発行
四六変(110mm×160mm) / 344頁
私が
耳の人と出会ったのは
ひっそりとした
路地奥の喫茶店だった
休日の昼下がり
店へ行くと
たいてい
その人はいた
いつも
白いうつわで
珈琲をすすっていた
二、三度顔を合わすうちに
話をするようになった
印象に残った言葉を記す
木曜日の
珈琲はおいしい
路地奥では
十九世紀が続いている
世界が一つになって
よいことは一つもない
私が詩を書いていることを知ると
その人は
だから
ここに避難しているんだね と
指摘した
そして
はっと何かを思い出したように
ポケットから
どんぐりを取り出し
お守りになるよ と
手渡してくれた
——耳の人 / p220より
奈良の森のほとりに暮らす詩人 西尾勝彦さんの詩集です。
『朝のはじまり』、『フタを開ける』、『言の森』、『耳の人』、私家版『耳の人のつづき』を収録しています。
忙しなさから放たれた、ゆたかに肥えた時がながれる詩集です。そのリズムにとっぷりと浸かると、いつのまにか、安心した、穏やかな生きものになっています。
胸のうちの、いつもは意識しない部分が、満たされていくことに気付きます。
[目次]
朝のはじまり
フタを開ける
言の森
耳の人
耳の人つづき
解説 Pippo(ぴっぽ)