発行 / 書肆侃侃房
2025年4月5日 第1刷発行
四六判 / 216頁
伊藤亜紗さん推薦!
——潔癖症なのに約30カ国を旅し、27歳でようやく大学受験。「リスク回避」「コスパ重視」の社会が到来する前の時代、まだ若かった先生は、敷かれたレールをひたむきに踏み外していた。北村さんは、最後の「変な大人」なのかもしれない。
日本経済新聞「プロムナード」の大好評連載に書き下ろしを加えて書籍化。『椎名林檎論』などが話題を呼んだ映画研究者の初エッセイ集!
(帯文より)
だが、実のところ効率主義/成果主義とアカデミアはとても相性が悪い。SNS社会となった2010年代、「難しいことをわかりやすく伝えること」の価値が高まった。難解で複雑なもの、抽象的なものを理解しようとする努力や好奇心がなくなり、いかに易しく嚙み砕くかが「知性」とみなされるようになった。
たしかに見える化して整理し、難しいことを単純化することで、ステップアップしていると感じられるし、損した気分にはならないかもしれない。けれども、教育や研究は膨大な時間を要する。一見、非効率的で無駄に思われる時間にこそ重要な要素があるといってもいい。
——動かなすぎる社会 / p33より
ところが、唯一無二の利己的なプレイヤーがすぐ側にいる。小学3年の我が息子だ。彼は人のために危険を冒すことは一切せず、仲間を平気で見殺しにする。仲間にいい武器を譲らず我先にと奪う。自分が取ろうとしたメダルや武器を仲間に奪われると、怒って返せと仲間を撃ちまくる(仲間にダメージは与えられないが、その意志は伝わる)。
——息子と遊ぶ / p133より
ここにおさめられたエッセイには、個人の人生の息苦しさと規範から逸れてゆく解放感、日常の些細なシーンにおける疑問や葛藤、そして怒りや歓び、あるいは非日常の時間に遭遇した、かけがえのない経験が記されている。
社会が決める正しいルールなどない。多くの人が、他人にではなく、自分自身の人生を豊かに感じられる道を歩んでほしい、そういう願いが込められているように思う。
——あとがき / p209より
[目次]
ネコになる/アルバイト/鳥体験/僕が旅に出る理由/倍速視聴される人/靴下偏愛人/動かなすぎる社会/レールを踏み外す/サンタクロースは誰だ/本との付き合い方/研究室という空間/テレビゲームと利他/トゲのない世界/推しの氾濫/恩師の忘れられない姿/安全な遊びと学び/メディアのマナー/怒りを飼いならせ/サバイブする文字/大人になること/アンコールワットの片隅で/消えゆく自然の遊具/僕の家族のこと/映画館の暗闇/手書きの温もり/子供の豊かな想像力/空き地と土管/怒れるタクシー運転手/ピンクとメイク/99というナンバー/ボリビアの高地で/手放す勇気/息子と遊ぶ/食べること/学生たちの襲来/あたしのからだ/大学教員の生活/首タオル/レンタルビデオ屋/テレビドラマの食卓/タバコアレルギー/人の温もり/旅先の少女たち/最後の花火が終わったら/家出してカルト映画が観られるようになった/最愛のカートへ/引っ越し人生/ヒーローになりたい/変な人たち/出会い直すこと/偶然性を生きる/あとがき/初出一覧