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残り1点
2023年5月21日 発行
A6判 / 72頁
こたつの天板をひっくり返すと麻雀のラシャだった。
あの緑色が現れると夜だった。
母屋の隣のプレハブ小屋で、父や祖父やその仕事仲間たちはいつも麻雀で遊んでいた。
それをじっと見つめる直行(なおゆき)の、父性と男性性へのコンプレックス、セクシュアリティの試行錯誤。
脈絡のない人生のさみしさやしくじりについて。
(著者のサイトより)
牛は雨の晩に出産するらしい。夜の雨は音もにおいも姿も隠してくれるからで、家畜の牛であってもその習性は残っているようだった。明け方前のまだ暗い時間。国道沿いの牛小屋から切なそうな鳴き声を聞いたことがあった。あれは母牛の分娩の声だったのか、周りの牛たちの励ましや祝福だったのか。非難かもしれない。どれでもないかもしれない。こっちが勝手にそのように思うだけで、牛が鳴くのはそういうことじゃない。
——p15より
心身をぶっこわして会社を辞めることになったが、その結論に至るまで長かった。直行は自動車の部品メーカーに就職した。せっかく新卒で入ったのだから辞めたら損だ、もし辞めたら二度と正社員になれないとだましだましやっていた。会社を辞めたら人生が終わってしまうとかたく信じ込んでいた。
——p32より
冗談のつもりなのか本気だったのか、リチ君はたしかに真剣な顔つきでやっていた。救出作業に取り組むレスキュー隊員の顔。というと言いすぎだろうか? 直行はリチ君の顔をじっと見ていた。自分が男の顔をじっと見る日が来るとは。
——p53より