東辻賢治郎 / 訳
左右社
2019年5月10日 第1刷発行
四六判 / 236頁
迷子とはおよそ精神の状態なのだ、いろいろな人と話してわたしはそう理解した。これは山奥で足を棒にすることだけでなく、あらゆる抽象的な、あるいは隠喩的な意味での道迷いにも同じことがいえるのではないか。
ならば、いったいどう迷えばいいのか。まったく迷わないのは生きているとはいえないし、迷い方を知らないでいるといつか身を滅ぼす。ゆたかな発見にみちた人生はその隙間に横たわる未詳の土地のどこかにあるはずだ。
「第1章 開け放たれた扉」p.20より
アメリカの作家であり、歴史家であるレベッカ・ソルニットによる著作です。
姿を消した曾祖母。16世紀の入植者であるカベサ・デ・バカ。インディアンに攫われたのち、養子として育てられた子供たち。若くして命を落とした親友。カントリーやウェスタンミュージックのこと。かつて愛した砂漠に似た男。ヒッチコックの「めまい」について。イヴ・クラインと彼の手による芸術作品。自身の父と、かつて暮らした家にまつわる話——
ソルニットの差し出す話題は多岐にわたり、ヴァルター・ベンヤミン、メノン、ソロー、ヴァージニア・ウルフなど、著作の引用という形で登場する同行者もまた、多岐にわたります。
ソルニット自身の人生と、アメリカの歴史を辿りながら、「迷い」について思いを馳せるのは、とても迂遠で、豊かなやり方です。安易な、分かりやすい答えは、ここには用意されていません。
著者の語りに導かれながら、わたしたちは自分自身の身をもって、本書のなかにあらゆる形の「迷い」を発見し、体験することになります。
最短距離で辿り着くこと、合理的であることから離れて、この本の上でゆっくりと思索を深めることは、わたしたちの助けになってくれるように思います。
——以下「訳者あとがき」より抜粋
本書の特徴に、これまで紹介されているレベッカ・ソルニットの作品に比して私的な色彩が濃いことがあるように思う。アカデミズムと異なる場に身をおき、自らの経験や身体、あるいは場所といったものから思索を展開することの多いソルニットの文章は、常に個人的な世界とその外側にある世界を架橋しながら書かれており、それぞれの著作にすこしずつ彼女の人生や人となりが反映されているように感じられるのだが、本書はそうした中でも特に著者の間近で、その内面の声を聞くような印象がある。
目次
第1章 開け放たれた扉
第2章 隔たりの青
第3章 ヒナギクの鎖
第4章 隔たりの青
第5章 手放すこと
第6章 隔たりの青
第7章 二つの鏃
第8章 隔たりの青
第9章 平屋の家
訳者あとがき
参照文献