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橋本智保 / 訳
書肆侃侃房
2023年2月6日 第1刷発行
四六変(122mm×188mm) / 152頁
私は生きていくうえで幻想は必要だと思っている。真実に目を背けず向き合うためにも、自分だけの想像を秘めておいたほうがいい。想像は逃避ではなく、信じる心をより強く持つことだから。
——寒い季節の始まりを信じてみよう / p14より
冬には「冬の心を持たねばならない」「十分に寒さにさらされねばならない」と言った詩人がいる。(中略)
冬の心で冬を見つめるのは当たり前のようだが、いま思うと、そうではなかったときのほうが多かった気がする。春の心で冬を見ると、冬はただ寒くて悲惨で虚しくて、早く去ってほしいだけの季節だ。しかしどんなに急かされようと、冬は自分の時間をまっとうしてからでないと退かない。苦しみがそうであるように。
——寒い季節の始まりを信じてみよう / p16より
散歩が役に立つかどうかだけを考えて歩く人を「散歩者」とは呼びたくはない。結果的に役に立つのが事実だとしてもだ。(中略)散歩やそぞろ歩きは、その効果を期待しないからこそ価値があるのだ。
——いくつかの丘と、一点の雲 / p126
かつて修道者としての道を志すも、叶わなかった詩人ハン・ジョンウォン。散歩と詩を愛し、老いた猫と暮らす彼女の、しずかなエッセイ集です。
オクタビオ・パス、シモーヌ・ヴェイユ、セサル・バジェホ、ライナー・マリア・リルケ、金子みすゞ——
ジョンウォンの愛した詩人たちのことばが、文章中に散りばめられています。
それだけでなく、ジョンウォンの愛した町、愛した季節、愛したひとびと、ほんのいっとき交わったひとびととの、ささやかな交歓も、繊細な筆致で描かれます。
美しく、静謐な文章を辿っていると、ジョンウォンの日々の豊かさに圧倒されます。外向きでなく、派手でない、自分自身のためのしずかな豊かさ。大事に読んでいると、いつの間にか、自分の日常にも染みだして、ささやかな灯りとなってくれるようです。
[目次]
宇宙よりもっと大きな
寒い季節の始まりを信じてみよう
散策が詩になるとき
幸せを信じますか
11月のフーガ
悲しみ、咳をする存在
果物がまるいのは
夏に似た愛
心のかぎりを尽くして来たから
永遠の中の一日
海から海のあいだに
なにも知りません
よく歩き、よく転びます
国境を越えること
みんなきれいなのに、私だけカンガルー
ひと晩のうちにも冬はやってくる
夢とおなじ材料でできている
夕暮れただけ
窓が一つあれば十分
灰色の力
真実はゆっくりとまぶしくなければ
猫は花の中に
いくつかの丘と、一点の雲
今日はわたしに、明日はあなたに
彼女の歩く姿は美しい(送らない手紙)
日本の読者のみなさんへ
訳者あとがき