写真 / 志賀理江子
palmbooks
2024年3月22日 発行
A5変型判 (154mm×154mm) / 144頁
深夜だった、明け方だった
散歩の途中に眠くなった私は、歩道に面したビルとビルの隙間のコンクリートの上に寝転んでいた、初夏だったと記憶する、コンクリートはひんやりとして気持ちが良かった、私はよくそういうことをした
——7 丑三つ時 / p15より
灰皿の中の髪の毛を、ライターの火で炙る
さっきまで、自分の体の一部であったのに、それは私であったのに、プツンと離れたとたん、まるでゴミのように思っている、もう私だと思っていない、切られた爪も、擦るたびにボロボロはがれる垢も、たしか私だったはずなのに
——35 ライター / p58より
犬を見る、私は食べたいと思わない
猫を見る、カラスを見る、やはり食べたいと思わない
しかし私はタコを食べることをする、納豆を食べることもする
肉や野菜を普通に食べるが、蟻やサボテンを食べたいとは思わない
これは本能でもなければ、学習でもない、私にそう刷り込まれたのだ
気づくと私はこうなっていた、やがて私は言葉を話し、文字を書き、こうして言葉で考えている、私の場合は日本語で、こうして何かが決定されて
私は人になっていく、私は私になっていく
——56 刷り込み / p93より
飴屋法水さんの小説です。けれど、わたしたちの知っている「小説」とは、随分ちがう姿かもしれません。
見知らぬ、あたらしい小説のかたち。詩のようでもあり、哲学書のようでもあり、エッセイのようでもある、ふしぎな一冊です。
この小説のために撮られた写真も散りばめられています。
寄る辺ないひとりの真夜中に、ゆっくりと引きこまれたい小説です。