発行 / ぼくみん出版会
2025年3月3日 初版
B6変 / 224頁
「福祉に従事することは、多かれ少なかれ、“らせん”のようなものである」
数十年に渡り福祉の道に従事してきたひとりの職員が、福祉と「支援」について書き残した一文である。
障害者支援や高齢者福祉など多様な分野の事業所を運営する社会福祉法人、南山城学園。そこで著者が出会ったのは、この社会がより生きやすいものになっていくためのヒントに溢れた、“最先端”の風景だった。
素朴だが、やさしく、やわらかい空間。丁寧かつ創意工夫に満ちた、細やかな支援。データをとり、その分析によって得られたエビデンスに基づいた取り組み。日々の実践をふりかえって研究し、言葉にすることを重視する活動。答えのない、複雑な事柄について話し合うことができる空気。利用者の生きがいに寄り添い、そのひとの人生に思いを巡らせることのできる想像力。支援しつづけるために支え合う、職員どうしのフラットな関係性。
——それらの根底に流れ、職員全体に浸透する「人を大事にする」という意識。
自分を取り巻く暮らしを少しずつ変えていくことで幸福へと近づいていく自らの軌跡を描いたベストセラー『私の生活改善運動 THIS IS MY LFE』。
その著者・安達茉莉子が次に描くのは、誰もが人間らしく生きることができる世界を目指す「福祉」の現場。
上から見れば、堂々めぐりのように見え、横から眺めれば後退しているようにも見える。でも、踏み出した一歩によって、わずかに、高みへと上がっている。
そんな“らせん”のような日々を、福祉の現場ではたらく職員の語りを通して描いたエッセイ。
(三輪舎のサイトより)
「上から見れば、堂々めぐりのように見え、横から眺めれば後退しているようにも見える。しかし、事実は、一歩一歩であろうとも、確実にせり上がってゆくもの、それが“らせん”である」
追悼文はこうつづく。
「福祉に従事することは、多かれ少なかれ、“らせん”のようなものである」と。
同じところをぐるぐると回っていて、自分が前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかもわからない。答えのない日々。だけど、一歩一歩でも、少しずつ上昇していく。そんな言葉を遺した人がいて、ずっと覚えていた人がいる。
——本書p3より
「不快を減らすって、すぐにできることもあるけど、そうでないこともある。自分の苦手な話しかたをする人が近くにいる状況から離れるのは難しいけれど、たとえば好きな動画を見て過ごすことはすぐにできますよね。利用者さんのなかには人を叩いてしまう人もいますが、叩く時間を減らすことを考えるより、叩かないで済む時間をどう増やすか考える。人の行動なんて、そううまく変えられるわけがないんです。人に言われて行動が変わるくらいなら、もうとっくに変わっていますよね」
叩かないで済む時間をどう増やすには、本人を変えるのではなく、本人を取り巻く環境を変えることが大事なのだ、と西田さんは語る。
——第9章 関係から降りないために / p166より
「ケアというお話、考えてみたんですけど。僕ね、究極、社会福祉という仕事自体がいつかなくなればいいなって思ってて。みんながそれぞれでちゃんと気遣って助けあっていける社会なら、支援員なんていらんやろうし」
——第10章 わからなさを大切に、複雑性と向き合う / p191より
[目次]
プロローグ ここは利用者さんたちが暮らす場所
第1章 クリエイティブな風景、丁寧な支援
第2章 福祉の現場で、自分を表現できた
第3章 その人の人生に思いを巡らせること
第4章 主体性を育てるあたらしい保育
第5章 変化に気づかなければ命にかかわる仕事
第6章 「誰でもできること」をプロフェッショナルに
第7章 知ろうとしないと、歩み寄ることもできない世界
第8章 地域交流から生まれるエンパワーメント
第9章 関係から降りないために
第10章 わからなさを大切に、複雑性と向き合う
エピローグ この道が永くつづくように
謝辞
南山城学園の「基本理念」と「七つの誓い」
参考文献
表記について