ユン・ジヨン / 訳
亜紀書房
2024年4月6日 第1版第1刷発行
四六判 / 288頁
アソンとクギョンは同じベッドで寝起きしたが、セックスはしなかった。どうしてそんなことをしなければならないのかよくわからないし、やりたくないと、アソンが言ったからだった。クギョンはそれでも何度か誘ってみたが、やがてアソンの意見を尊重してきっぱり断念した。そのうち二人はキスすらしなくなったが、それでも変わらずとても仲が良かった。アソンにとって唯一不満があるとすればそれはクギョンが一人思索にふけるときで、そんなとき彼女は冷たい水のなかに打ち捨てられたような気持ちになった。
——海辺の迷路 / p96より
それは過ぎ去った。わたしはもう大丈夫だ。ある夜遅く、熱いシャワーを浴びたあとひんやりした革のソファに座り、海のなかの情景を静かに追うドキュメンタリーを観ていたわたしは、ふと自分がその出来事をくぐり抜けたことに気づいた。
——メゾと近似 / p248より
共生の感覚を回復させるウ・ダヨンの文学は、韓国だけでなく、今の世界に必要な声であると感じた。作品を訳しながら、ヘイトと暴力、戦争やテロがあまりに日常化した時代に、わたしたちはどのようにすれば善良な心を働かせ、共生に向かうことができるのかを深く悩みながら語りかける声に共鳴するとともに、著者が世界をみる視線に慰められた。
——訳者あとがき / p287より
洗練された文体と神秘的なスタイルで注目される韓国文学の新鋭による短編集。夢と現実が交差する迷路のような物語は、私たちの目を世界の本質へと向ける。
共生の感覚を回復させる魅惑的な8つの物語。
洗練された文体で描く幻想的な物語をとおして、良かれと思った〝優しさ〟が往々にして他者を傷つける〝独善〟になってしまうような、現実世界の複雑さを見つめていく。
(帯文および、亜紀書房のサイトより)
[目次]
あなたのいた風景の神と眠らぬ巨人
アリス、アリスと呼べば
海辺の迷路
夜の潜泳
チャンモ
人が人を助けねば
夜は輝く一つの石
メゾと近似
あとがき
訳者あとがき