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別れを告げない / ハン・ガン

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斎藤真理子 / 訳 白水社 2024年4月10日 第一刷発行 四六判 / 324頁 初めてその夢を見た夜と、あの夏の明け方との間の四年間に、私はいくつかの個人的な別れを経験していた。ある別れは自分の意志で選んだが、またある別れは想像することさえできない、すべてを賭けてでも避けたかったものだ。さまざまな古い信仰の世界で言われてきたように、人間の一挙手一投足を見守り記録する巨大な鏡のようなものが天上か冥府のどこかに存在するならば、そこに映った私の過去四年間は、殻から体を引き剝がして刃の上を前進するカタツムリさながらであっただろう。 ——1 結晶 / p12より 工房の電気を消してドアを閉めた後、防水布がたわむたびに荒々しい切断面を見せる木たちを背にして私は歩いていく。スコップを脇に抱え、さっき母屋に行ったときの足跡をたどって踏みながら進んでゆく。母屋の玄関に入り、雪を払ってドアを閉め、施錠する。この雪と夜を突き破って入ってこようとする者がいるかのように。 ——6 木 / p149より 私は目を閉じる。 遠くの西向き窓のブラインドのすき間から徐々に深く入ってきて、ついに私の顔のところまで達していた閲覧室の廊下の日差し。その光がますます生々しく迫ってきたからだ。さっき読んだ数字の下で暴れている血の奔流を一気に揮発させるような、まばゆい光だった。まぶしいので席を移る直前に読んでいた脚注が、真夜中のできごとの証言だったのに光を放つかのように記憶されたのは、そのためだっただろう。 ——5 落下 / p243より 作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。 済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も…… いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。 (白水社ホームページをもとに記載) [目次] 第Ⅰ部 鳥  1 結晶  2 糸  3 豪雪  4 鳥  5 残光  6 木 第Ⅱ部 夜  1 別れを告げない  2 影たち  3 風  4 静寂  5 落下  6 海の下 第Ⅲ部 炎 あとがき 訳者あとがき

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