2023年11月9日 初版第1刷発行
A6判(105mm×148mm) / 98頁
私は子どもを持つことではなく「ママ」になることがいやだったのだ。「ママ」にまとわりつく「生物学上の親」という意味以上の何かに、からめとられるのがいやだった。その肩書きを名乗ったとたん、それまでの人生でちょっとずつファイリングしてきた経験や感情や思い出ややりたいことが「ゴミ箱」フォルダに振り分けられて、二度と復元できなくなるのではないか。そんなこわさがあった。
——はじめに / p3より
家族の関係も「惑星」であると私は思う。(…)これからそれぞれの軌道は大きく逸れていくかもしれない。しばらくは並走するのかもしれない。一度遠くに離れてまた近づくのかもしれない。それは誰にもわからない。だからこそ、偶然軌道が一致したこの時間が、楽しく彩あるものであればいいなと思う。願わくば、もしもいつかそれぞれの軌道が遥か遠くに離れて見えなくなってしまったとしても、「あの時間はよかったな」と私たちを芯から支えてくれるような、そういう時間になればいい。
——家族と惑星 / p19より
もともと持っていた苗字を手放し、「〇〇ちゃんのママ」と呼ばれ、その道筋でぽろぽろと落としていくいろんなもの。そんな落とし物を、道端や会話の中でふと拾うことがある。逆に、他の人が私の落としたものを拾ってくれるときもあるだろう。ときどきでも、拾ったものをお互いに見せ合えたらいいなと思う。そうして「そういえば私はこんなものを持っていたんだった」と、少しの時間でも思い出せたらいい。
——あなたがママじゃなかった頃 / p49より
夫と、ふたりの子どもと一緒に暮らしている。けれど、「ママになりたい」と思ったことはない——「ママ」という肩書きをえることになったひとりの女性が、自分自身のことについて、自分のことばで綴ったエッセイ。
肩書きに絡めとられることなく、他でもない自分自身として存在しながら、生きてゆくすがたに、目の前があかるくなるような、励まされるような一冊です。
[目次]
はじめに
「ママ」のコスプレ
子どもの呼び方問題
続・呼び方問題
家族と惑星
同じシャンプー使った夜も
新生児がいた頃
シンガポールチキンライス店にて
納豆食べときゃ大丈夫だから
子どもがいたら「死ねない」と思うの?
バイクの免許をとったのは
カレーパンの一口目
あなたがママじゃなかった頃
母とは詩を持たない人なのか
aftersun / アフターサン
マルサの女
無償の愛はまだ知らない
どうもあのときのバカ親です
おかえりバックパック
面の切り替えをしてくれる人
「生活」をやっていくのだ
波を求めて
おわりに