2025年5月11日 初版第1刷
B6判 / 136頁
これまでのようなエッセイではなく、実話を基にした創作を書きました。主人公が生まれてから大人になるまでに履いてきた8つの靴を巡る、短篇集です。
既刊をお読みくださった方は、もしかしたらびっくりされるかもしれないと思いつつ、けれど通底しているものは同じです。家族という人間関係の痛みと苦しみ、愛と理不尽、かつてここにあって今はもうないもの。そういったことです。今回はより深く家族というものについて描くために、たくさんの時間を経た結果、創作の形をえらびました。
この本が、家族を愛することと憎むことの間で、信じることと疑うことの間で、絶えず苦しみつづけている方のもとへ、届いてほしいです。
(著者のInstagram投稿より)
母という人は、なんと言えばいいのだろう、父のほんとうのところをいつまでもそうとは認めたくなくて歯を食いしばってねばりつづけているような——世界に置いてけぼりを喰らってほんとうは心ぼそくても、まだ足もとの小石をていねいにかぞえているような人だった。
——羽根のはえた靴 / p9より
「あなたは好きな靴を履くといい。だれの目も気にせずに、これでなら歩いていけると思える靴をえらんで履くのよ。あなたならそれを見極める力があるでしょうから」
——背伸びの靴 / p95より
今ここにいる私とどのように繋がっているのかわからない、遠くのだれかの物語のなかに、じぶんの居場所がある。それは、とてもふしぎなことだった。とてもつよい感覚でもあった。そして家族といるほうの世界で心砕かれたとしても、そうとしっているだけでふらふら立ちあがれるほどのものであった。
そのうち、ふたつの世界はどちらが虚で実ということはなく、いびつにいり混じるようになった。それはうごめきつづけた——はるか大陸と大陸とが時間をかけて、さらにはるかな力によってひかれあい、たがいにのみ込みあうようにして境が失せ、いつの間にかひとつづきとなってすっかり生まれなおしてしまったような感覚を、忘れられない。
——あとがき——私を前へ運ぶもの / p130より
[目次]
羽根のはえた靴
花びらをかぞえる靴
ボスの靴
幸運の靴
ハワイからきた靴
背伸びの靴
深夜を走る靴
青い靴
あとがき——私を前へ運ぶもの