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湖まで / 大崎清夏

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発行 / palmbooks 2025年5月15日 発行 四六変 / 160頁 歩いていった先に大きな水の塊があることは安心だった。 海でも川でも湖でも。 ひとと出会い、土地に触れ、わたしはわたしになっていく。みずからの世界の扉をひらく全5篇。 いまを生き、いまを描く詩人による 詩と散文のさきに見出された光り溢れる 初めての書き下ろし連作小説集。 (palmbooksのサイトより) 身体のまんなかのところに、大きな湖がある。 それはいつか八ヶ岳のどこかで見た、名前も忘れてしまった湖によく似ていて、鏡のように凪いでいることもあれば、風が吹けば水の波紋が立ち、大雨が続けば溢れ、日照りが続けば涸れかける。その湖の畔にしゃがみこんで、小さな女の子が木の葉や木の実を並べておままごとをするように、料理をし、洗濯物を干し、本を読み、買いものをして、わたしは日々の暮らしを立てている。 湖が溢れても涸れても、わたしはそれをただ立ち尽くして、おろおろ見ていることしかできない。そこにわたし以外の誰かが立ち入ったことはない。珠季さんも——いつか来る日があるだろうか——まだ来たことはない。 ——湖畔に暮らす / p7より この土地の土を捏ねて焼いたムクさんの紅茶茶碗は、ずんぐり重くて、肌触りはざらりとしていて、両手のてのひらで包むと、注いだ紅茶の熱がじわーっと伝わってくる。星も月も出ない闇夜の夜空みたいな色をしたそのうつわと、温かい紅茶の表面からたちのぼる湯気の踊りを見つめていると、時間というものが湯気に巻きこまれて、吸いこまれてしまう感じがする。やっとひとくちめを飲む頃、紅茶はたいていちょっと冷めてしまうのだけど、冷めても美味しいし、猫舌だから、いいんだ。 ——次の足を出すところ / p61より 日曜日。気持ちのいい秋晴れ。毎朝そうするようにキッチンのガスコンロでお湯を沸かしてコーヒーをいれて飲み、溜まっていた洗濯ものを洗濯機に入れてまわす。リビングの窓際のサイドボードの隅に、図書館で借りた漫画の第二〇巻がぽんと放り投げてあるのが目にとまって、朝ごはんも食べずに二人がけのソファに座りこんで夢中になって読んでいたら、洗濯機がピーピーいってその業務を終えたことを告げた。 ——二〇二四年十一月三日 / p129より [目次] 湖畔に暮らす 眼鏡のバレリーナのために 次の足を出すところ みなみのかんむり座の発見 二〇二四年十一月三日

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