発行 / まわれ虎
2025年8月27日 初版発行
A4変 / 94頁(カラー写真8頁)
木版画・手製本 / 初版限定200部
----------------------------------------------
【タイヤひっぱり】
役目を終えて棄てられた車のタイヤを拾い、ロープをくくりつける。それを両手に握り、肩に掛けながら、ごろごろと引き摺り、軌跡を描きながら島を一回り歩くこと。タイヤの振動は心身と呼応し、その重みは魂を繋ぎ止める。流れる汗は島々に染み込んでいく。
これまでに、台湾/屋久島/種子島 /奄美大島/パナイ島(フィリピン)/モロタイ島(インドネシア)において、タイヤがひっぱられた。
----------------------------------------------
太平洋に浮かぶ日本列島の東京に生まれた野口は、太平洋周縁部に連なる弧状列島の“バラバラな群島性”に導かれ、毎年、夏になるとタイヤひっぱり男となり南の島々を訪れます。
今年の7月、タイヤひっぱり男は、赤道直下のインドネシア、モロタイ島に現れました。
かつて日本が、大東亜共栄圏なる理念のもと占領していたモロタイ島。日本統治下の台湾に出自をもつ残留日本兵「中村輝夫」またの名を「スニヨン/李光輝」が、終戦から数えておよそ30年もの間、ジャングルでひとり生きていた島です。
タイヤひっぱり男は、背負子に荷物をくくりつけ、タイヤをひっぱり山を越え谷を抜け、浜辺を歩き、軌道を描き、汗を流し、ココナツを飲み、エイリアンタープで眠り、天秤棒でタイヤの削れた質量を観測し、世話になった島民にお礼の木版画を渡し、また歩く。
島を歩きながら書き留めた日記を、旅の余熱を感じながら帰国後一ヶ月で加筆・編集、あとがきを書き下ろしました。
別府での濃密な編集合宿を経て、思いがけない方向へと筆が走り、旅行記としておもしろく読み応え十分なことはもちろん、単なる旅の記録を遥に超えた出来栄えに。
表紙カバーの木版画は、野口がモロタイ島で彫り、旅の道中で使用していた版木と、もう一つの継続している活動「蛸みこし」で生まれた版木を組み合わせながら、一枚一枚手摺りしています。(エディションナンバー入り)
木版画ならではの風合いをお楽しみください。
そして、本文とカラー写真を合わせて束ね、麻紐で一冊ずつ括り、手製本。手触りの良い仕上がりになりました。
ぜひ一読とは言わず、お手元で長く連れ添っていただきたいです。
(まわれ虎のサイトより)
——南の島々。
むろん、南とは、「私」が生まれ育った東京からの「私」の視点である。ふとした時に、探検と称して「南の島々」に熱を入れる自分に、むせ返りそうになる時がある。その言葉に響く明るい情緒のようなものの裏には、かつて帝国日本を南進へと突き動かした「南」への身勝手な憧れや決めつけが、重い影のように浮かび上がってくるのだ。それでも歩いていると、太平洋の島々に生きる「私たち」という主語の可能性を追い求めてみたくなることがある。
「私たち」は、これらの島々のように、皆がバラバラなまま、お互いを愛し、手放し、一緒にいることができるのではないだろうか。私が生きる東京もまた、太平洋諸島の中の日本列島という群島の、バラバラな「島々」のうちのひとつなのだから。
——はじめに / p7より
今日も急斜面を歩く。「一歩一歩を続けただけだよ」これは学生時代の恩師、人類拡張のルートを人力で旅した探検家の関野義晴先生が飲み会か何かで言っていた言葉。苦しい時に思い出す。地図を見ているとこれからもだいぶ長いこと起伏の激しい地帯が続くようだ。もはや、なりふり構わずガツガツ進むほうがいいのか、やはり体温を上げすぎないほうがいいのか、そんなことを考えながら一歩一歩進んでいく。
——////••// 喉の渇き / p36より
特筆すべきは、噂や詮索がほとんどないことだ。噂とは、他者を特別視する心の裏返しであり、比較や評価の視点を生む。去年のパナイ島では、旅の前半に集まった「タイヤひっぱり男」への懐疑や蔑視が、後半になってダイナミックに反転、一躍島の人気者になり、老若男女が通りに並び、その来訪を今か今かと待ち望むような現象が生まれていた。対してこの島では、「何者であるか」「何のために来たのか」といった関心よりも、目の前にいる者とリラックスして時間を共にすることが優先されていたように思う。この振る舞いは、単なる礼儀や習慣ではなく、この島全体を支える文化的原理のように思える。つまり、島の人々は個々の存在や出来事を評価したり比較したりする前に、共に過ごす時間の質の方を優先しているように見えるのだ。この優先順位の逆転は、都市的な効率や成功の価値観に慣れた私にとっては、静かに目が覚めていくような体験だった。簡単に言えば、目先の価値判断や競争心を抑制し、互いの存在を肯定することによって、心地よさを作り出している、という感じなのか、もっともっと深遠な何かがある気がしている。
——////••///•////•///// 凧つり / p72より
[目次]
はじめに
モロタイ島
ダルバの日々
変なおじさん
海辺を歩く
台湾の蕃刀
骨と家事
版画の準備
/ いざ出発
// サンダル
/// 一人の食卓
//// エイリアン
////• 天秤観測
////•• 風は南から
////••/ ココナツ
////••// 喉の渇き
////••/// 岬をまわる
////••///• 賢いひと
////••///•/ クリリン
////••///•// 楽園と排便
////••///•/// 土地の汗
////••///•//// 島の東側へ
////••///•////• 遠浅の漁
////••///•////•/ 謎の女子(傘)
////••///•////•// さみしい犬
////••///•////•/// 海辺の東屋
////••///•////•//// みよとうかいの
////••///•////•///// 凧つり
あとがき
背負子と浦島太郎
骨と酒
傷と蕃刀