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訳者 / 橋本智保
発行 / 書肆侃侃房
2026年8月1日 第1刷発行
四六変 / 144頁
『詩と散策』のハン・ジョンウォンが綴る八月
夏の陽射しを浴びた木の陰、夏の雨が澱んだ水たまり、沈黙に向かう鐘の音、など。過ぎていく夏を記憶し、鼻の先や耳元に残っている夏の形跡をたどる。
ナンダ出版社の詩のシリーズの一冊。ひとりの詩人がひと月を受け持ち、一日に一篇ずつ綴る。八月は『詩と散策』の著者であり詩人のハン・ジョンウォンが担当した。
(版元のサイトより)
七つの月を失い、私は筆をとる。やがて跡形もなく消える八月、七月と九月のあわいの影をつかもうと。その試みが失敗に終わるのは明らかだ。どのみち、時間はつかまえられないのだから。だとしても。
いなくなるひとりを撫でるように。
——残暑の日々 / p5より
皺は、谷があるということ。隠された部分があるということ。
秘密は誰にでも、何にでもある。人間も木も狐も、季節も夜も言葉も、善悪も病も死も、説明できず理解されない側面を持っている。明るい秘密、暗い秘密、明るい秘密、暗い秘密。歓喜とか傷とかが刻んだ失語の線。
私は一生それを知りたいと思うだろうが、むやみに探るまいと、ひとり明滅する灯台を眺めるように遠くからずっと見守ろうと、心に決める。
——波がなければ / p91より
悲しみ。悲しみは水溶性だという。だから、湖がほんの少し深くなるだろう。雲と星が揺れるのを見つめるだろう。湖を愛するだろう。湖を捨てて出ていくだろう。湖に戻ってくるか、戻れないだろう。それでも湖はその場にそのまま。固有に。青い蒙古斑のように残るだろう。私は椅子から立ち上がり、窓の外を見る。すっかり暗い。あそこに湖があるだろうか、ないだろうか。
——湖の名前には冠詞がつかない / p117
[目次]
作家の言葉 残暑の日々
8月1日 (エッセイ)鐘の音
8月2日 (詩)夏のこと
8月3日 (写真)夢のしっぽ
8月4日 (エッセイ)ラクリモーサ
8月5日 (詩)情死
8月6日 (写真)まだ言葉がなかったとき人々は石で気持ちを伝えたという
8月7日 (エッセイ)少し愛する
8月8日 (詩)秘密
8月9日 (写真)夏の雨は眠りを誘う
8月10日 (エッセイ)重たい喜び
8月11日 (エッセイ)匂いの記憶
8月12日 (詩)鼻歌
8月13日 (写真)ゾウのしわ
8月14日 (エッセイ)解放
8月15日 (エッセイ)雨の重さ
8月16日 (詩)みそかづき
8月17日 (写真)涙
8月18日 (詩)白夜
8月19日 (エッセイ)波がなければ
8月20日 (詩)波
8月21日 (写真)接触
8月22日 (エッセイ)止む
8月23日 (詩)蜂たちが戻ってくるのを待つ夕暮れ
8月24日 (写真)くーーーーーーも
8月25日 (エッセイ)定住
8月26日 (詩)湖の名前には冠詞がつかない
8月27日 (写真)消えた音
8月28日 (エッセイ)山の音——夏にまた読む本
8月29日 (詩)器
8月30日 (写真)残っているものたち
8月31日 (エッセイ)夏は止まれ
訳者あとがき