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2026年5月4日 初版発行
B6変判 / 122頁
2025年12月19日、恒星間天体3I/ATLASは70億年の旅の途中、太陽系に突入してわたしたちに接近し、光る尾を伸ばして未来へと去っていった。
ちかづく、はなれる、心の通い合いとすれ違い。あの時出会わなかったら?あの時出会っていたから。
とるにたらずとも、たしかにそこにあったあの瞬間をわたしは彗星と呼びたい。ゆるやかにめぐる生活の、一度きりの邂逅を綴った16編のなんてことない生活エッセイ。
(著者のホームページより)
両手にひとつずつ握りしめたカイロでは心細くて、びかびかに冴えた目で、普段はあまり観ることのないユーネクストを開く。気になっていたわけでもない邦画は奇跡みたいな朝ときみだけが寂しい夜を繰り返し、春の匂いがしたエンドロールに、ようやく障子の外の藍色がほんの少しだけ色を落として、ひかりはじめたようにおもえた。夜明けである。今までひとつも眠いとおもえなかったまぶたが、朝の予感にほころんでいく。ガラス戸の隙間からは、台所を埋めつくしていたくらやみがとろとろ溶けはじめようとしているのが見えて、ここが宇宙の中心であることを、わたしはまどろみながらもう一度おもいだす。
——#FFF8E7 / p22より
それにしてもなぜ人類は、ドライヤーで髪を乾かすことを当たり前だとおもっているのだろう。エネルギーとなる物質を発見したり、地球にいながら天体のかたちまでわかったりしてからたった数百年、わたしたちはものすごい速さで空飛ぶ乗り物やら、ものすごい高さの家やら、星と一緒にうかぶ第二のプラットフォームまでつくりあげてきたのに、ドライヤーときたらなんだ。
——銀河の踊り場にて / p23より
「何にうそをついているのか、わからなくなりそうで」わたしはゆっくりと言う。特段言おうと決めていなかったけれど、ずっとおもっていることだった。じぶんはずっと目の前のものと、人と、まっすぐ向き合っていて、うそをついているつもりはないのに、目を閉じてまた開けたら何かじぶんの中のものが欠落していて、欠けたことにその場で気づけないでいるとどんどん辻褄が合わなくなっていく感じがする。それがくるしくて体がおもうように動かなくなってきました。
——素直 / p89より
[目次]
2025.10.29
Orion
#FFF8E7
銀河の踊り場にて
天までそだて
デブのD
とうきょう・えんじぇる
買い物ドギマギ
スペースシャワー
スーパーノヴァ
2025.12.19
いつかロイヤルで朝食を
月が綺麗ね
地球防衛アルバイト
素直
ミルキーウェイ
すりーあいあとらす
モデラート
あとがき