発行 / 河出書房新社
2026年3月30日 初版発行
四六判 / 176頁
触れられないから、愛おしい——?
テーマパークのきつねのきぐるみ・「こんこん」を愛するまど。その愛は次第に「中の人」への執着へと変わってゆき……。気鋭詩人の言葉きらめく傑作小説
文芸誌「文藝」掲載直後より各紙誌で高く評価され、SNS上には共感・感嘆の声があふれた表題作に加え、書き下ろしとして、お気に入りのシールをなくして会社を休んだ数日間を描く掌篇小説「水滴のシール」、詩篇「水色の家」を収録。
「きみを愛することが、きみのために少しもならないとしたら、私は私の愛情を抱えて、この愛情がどこまでも膨らんで、孤独も嫉妬も埋め尽くして、そうして愛にすがりつくことなどできないほどに、愛そのものになるまで、きみを愛し続けるだろう。この物語を読むと、そう思えた。」
——最果タヒ
〈いまのわたしをかたちづくっているのは、顔も、名前も知らないあなた。あなただけ——〉
テーマパークの“雪のようで、湧き水のようなきつね”の着ぐるみ「こんこん」を愛するまど。
その“中の人”を見つけ出そうと、「着ぐるみに入れる体格」という条件でマッチングアプリを始め、低身長コンプレックスの男性・ひらくと出会うけれど……。
これは恋? 推し? 信仰? 執着?
——大好きなあなたと、ただ繋がっていたいだけ。
触れられない「誰か」に焦がれたことのあるあなたへ捧げる、どうしようもなく屈折してどこまでも透き通った、かけがえのない愛の物語。
(版元のサイトより)
平日の昼下がり、人通りがまるでない時間はこうやってバルーンをつくる。ポンプ式の空気入れを使うとすぐにふくらんでしまうから、唇でバルーンの先端をはさんで、そのくたびれた水色の身体に息を吹き込む。神様も、人間をつくったときはこんな気持ちだったのかな。
——こんこん / p7より
わたしは目を閉じた。仄暗いまぶたのうらで、星の一生や、あの日パークで見た花火が爆ぜては消えてゆく。
「だけどさ。性欲って、それ自体は悪いことじゃないって、やっぱり思ったんだ。きれいでも、汚くもなくて、多分ちょっと水みたい」
ううん、と心の中では思った。でも、うんと言った。
——こんこん / p123より
「じゃあ、なんでわたしのあざらし、奪ったの」
「はじめてほしいと思ったから」
——水滴のシール / p155より
[目次]
こんこん
水滴のシール
水色の家