佐藤直子 / 訳
書肆侃侃房
2023年8月2日 第1刷発行
四六判 / 280頁
流産から六日目で、彼女はまだ出血していた。最初の十時間のひっきりなしの大量出血ではなくて、今やそれはどろっと凝固したひも状のもつれで、中身はゼラチン質だった。妊娠がエンストを起こしても大抵の場合、介入の必要はない。身体はその失敗を自ずと吐き出す術を知っているから。たぶんそれが他の女性が語るトラウマ体験の原因なのだ。その驚きという要素が。いつ何どき起こるかわからない!彼女の場合、身体はじっと持ちこたえていた。うやうやしく、彼女が予定を空けるのを待ちながら。その結果はトラウマ以下で、不都合以上の何かだった。
——三月の終わり / p6より
大学非常勤講師のドロシーは、流産したばかり。
セラピストにも、親友にも、母親にも、流産したことを打ち明けていない。美術館に行ったり、大学で講義をしたり、セラピーに通ったり、傍目には通常どおりに映る彼女の生活。けれど、出血はとまらず、ままならない身体と、不安定なキャリアに、寄る辺なさを抱えている——
「流産」というテーマを、克明に描いた小説です。
ドロシーの、彼女自身とのあいだに交わされる内的な対話が、ユーモラスで魅力的です。
「訳者解説」より、この本を表わした箇所を紹介します。
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この小説を読むうえで流産、生理、妊娠、中絶の経験があるか否かは関係ない。ドロシーが流産した原因を科学的に説明することはせず、あくまで流産を彼女の身に起きた偶然の出来事として描く本書は、時に我々のコントロールを超えて予想外の動きをする身体と知性はいかに向き合い、折り合いをつけていくか、という普遍的な問題に取り組んでいる。
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[目次]
三月の終わり
その翌日
五日後
数週間後
翌週の土曜の夜
十日後
日本の読者への手紙
訳者解説