吉良佳奈江 / 訳
書肆侃侃房
2023年10月15日 第1刷発行
B6判 / 224頁
この手紙をまとめるために、私はとても遠いところに来ています。日常に埋もれていては私の文章がとうてい完成させられそうにないという口実で、遠くまで来てなじみのない宿泊先でこうやってキーボードを打っています。流れ者の星に生まれついたな、なんて幻想を抱くことに罪悪感を抱えたまま、3時間余りも長距離バスに乗ってきたので、腰がめちゃ痛いですよ。どうか、私の手紙の届いた先が平和とインスピレーションであふれていますように。
——もしも私が妊娠したらどうするかパートナーに聞いてみました / p68より
“私はみんなからどう見られているんだろう?”
この質問から自由になれる人がいるでしょうか。私生活のすべては暴かれたくないけれど、断片的な姿だけで評価されるのも嫌で、目立ちすぎるのも嫌で、忘れられたくはないし……私が自分を一番よくわかっていると思うけれど、それは完全に錯覚かもしれなくて。
——健康ではないジュンイチと私がともに生きていく姿を見守ってください / p145より
今はひとり暮らしですが、私は寂しくありません。今は誰かと話したいときにどこに行けばいいのかわかっているし、ひとりのときはその瞬間を満喫しようとしますから。世の中が良くなって、こうやってひとりでコンピューターを前に想像の中の読者に会うのも、ある意味発達した現代社会の美しい対話の一形態だと思います。(スリーク)
——日本の読者の皆さんへ / p222より
「手紙には何度も(カッコ)を使いましたね」
ミュージシャンで、フェミニズムの同志。
先行き不明のコロナ禍に交わされたイ・ランとスリークふたりの往復書簡。
猫と暮らすこと、妊娠する身体、憂鬱な心の話を分かち合い、ヴィーガニズムや反トランスジェンダー差別を語り合う。私的なことと社会的なこと、共感と対話のあいだを行き来しながら紡がれる優しくゆたかな言葉たちは、あたらしい距離を測りつづけている。
(帯文より)
[目次]
プロローグ
こんなご時勢にお元気ですかと聞くのは失礼でしょうか?
もうひとり、名前が2文字のスリークへ
猫と話すことができたなら
ジュンイチが不快に思うのが“わたし”だったらどうしよう
ジュンイチとランイへ
“ヤバい、妊娠した?”って思うのは私ひとりじゃ
ないみたいですね
もしも私が妊娠したらどうするかパートナーに
聞いてみました
ランイみたいな物乞いの子がいるかと思って
廃墟が“夢の家”になるまで
アーティスト“イ・ラン”が何かを作る過程
いい音楽って何なのか何を考えるの、ただ作るだけ♫
ある種の痛みは決して忘れられません
ゆっくりと確実にくずおれつつあります
タトゥーを入れて温泉に行きたいです
タトゥーだらけの両腕で温泉に入る方法♨
健康ではないジュンイチと私がともに生きていく姿を
見守ってください
私は今日も勉強しに行きます
この文章、次の文章を書けるだろうか
オープンにして生きる、隠して生きる
スリークとどんなふうに付き合えばいいのか
まだ悩んでいます
胃薬そのもの
リョンファへ
エピローグ
訳者あとがき
日本の読者の皆さんへ