すんみ / 訳
晶文社
2024年3月10日 初版
四六判 / 436頁
敬愛はそんな気持ちについて知り尽くしていた。現実的な効用を考えればさっさと捨てるべきものを、心の体積を保つためだけに持ち続けるような気持ちについて。
それでサンジュ先輩と別れてからも、彼に関連する物を何一つ捨てられなかった。
——E / p69より
敬愛は冷たい何かに自分がとらわれてしまったような気がした。大きくて温度がとてつもなく低い何かが、自分の背中にくっついているような気がした。その何かが腕を広げて敬愛の頭と目と唇と、やがては心臓までを完全に支配してしまった。誰かがうっかり作ってしまった被造物のような何かに。
——E / p85より
すっかり雪をかぶってしまったかのように冷たく固まってしまった母と海、波が砕かれる夏の砂浜。そんなものを思い出させるあの歌は、夜の空気を妙にかき分けていた。そうやって冬と夏の時間が共存していた。さらには日本の夏だということで、幾つもの夏が重なっていた。
——冷えきった夏 / p215より
物語を書き終えることができました。心を尽くしました。
——あとがき / p423より
1999年に韓国・仁川(インチョン)で実際に起きた火災事件を題材にした著者初の長編小説、待望の邦訳刊行。
ミシン会社で働くサンスと敬愛(キョンエ)。お荷物社員の二人がチームを組むことになった。すれ違い、空回りしながら距離を探り合う日々。やがて互いの過去が少しずつ関係を変えていく。そんな中、チームはベトナムへの派遣が決まり、それぞれの思いを胸に新しい地を訪れるが——
理不尽な火災事件で親しい人を失い、亡霊のように生きていた男女の転機と再生を描く。
(晶文社のサイトより)
[目次]
空白はやっかいだ
E
あなたと私のお別れ
空っぽの心
殺人は恋愛のように、恋愛は殺人のように
冷えきった夏
あなたには妹がいますか?
痛みにも気づかずに笑っていた
雨粒が頭上に降り注いでくる
オンニには罪がない
あとがき
訳者あとがき