白水社
2023年1月10日 発行
四六判 / 204頁
母親との関係は、必ず修復すべきものじゃない。縁を切るのも、有効な方法のひとつだと思う。世の中には想像を絶するような、さまざまな事情がある。わたしの場合は、母との関係を修復することにこだわっている。(…)結局は「知りたい」という好奇心が勝っている。いったいなぜ、母は父とうまくいかないのか。母も父も、子どもの存在をどう思っているのか。人はなぜ、一人の異性と一生添いとげる約束なんて、わざわざ交わすのか。なぜ血が繋がっているというだけで、記憶を乗り越えてあの人たちを愛したいと思ってしまうのか。
——テント日記 / p50より
センター街地下の雰囲気が本当に好き。どうして地下街がこんなに好きなのか。もぐらみたいに、できるだけ外に出たくないと思ってしまう。アリさんと別れたあと、元町で磯部さん親子の撮影。
——「縫うこと、着ること、語ること。」日記 / p150より
表現はわたしにとって自己回復の手段であり、死を回避するための方法だった。きっといまでもそういう側面を、なんらかのレベルでは保持しながら制作している。死といっても、単に命が尽きることを意味するのではなく、社会に存在が認知されない状態や、生きた心地がしないほどの恐怖やストレスに晒されること、自尊心が著しく損なわれたまま生きることなどを含む。人の期待に応えたり、役に立ったりしなくたって生きていていいことを、昔の自分に証明したくて制作してもいる。
——おわりに / p192より
家庭という秘密の場所での、女たちの物語
長年縛られ、苦しんできた母との関係に変化を生み出すために始めたテントの共同制作。母と初めて向き合い、制作過程の出来事や思いの変化を綴った。
母との関係にもがいてきた「わたし」も今は「母」になり、過去の母親の言動を思い返すとき、唯一の話し相手だった祖母を亡くしてから、心を病んだ母の姿が浮かび上がる。
家という閉ざされた空間は、その機能を逆転させ、そこで傷つく人や深刻な問題を隠す危険な場所にもなる。
本書で明らかになるのは、完成したテントからは見えない、一見普通の家族の、いびつさであり、破れであり、社会の構造的な軋轢から逃れられず、葛藤しながら生きる女たちの物語である。そこに、お互いを理解しあおうとする愛があるからこそ、伝わるものがある。
(白水社のサイトより、抜粋)
[目次]
はじめに
テント日記
「縫うこと、着ること、語ること。」日記
おわりに
図版タイトルリスト