発行 / 百万年書房
2024年10月30日 初版発行
四六変 / 232頁
日々の息苦しさからの解放。
ここに綴られた詩は、あらゆる事象の境界を
溶かし、生まれたての眼で世界を見せてくれる。
——又吉直樹(お笑い芸人)
幼さを内包しながら、少女は溶ける。
羽化した大人の身体。虫の眼で見つめる世界。
日常の美しさと痛みを描き出す、透明な言葉たち。
——今日マチ子(漫画家)
「幸福な人間に詩は書けない」とある詩人は言ったが、わたしはそれを信じない。くじらさんは手を伸ばす。いま匂いや重みをもつきみ、おまえ、あなたへと。あなたの向こうの窓やその先へと。その道すがら、出会う誰かと互いに呼吸を渡し合って、生きて詩を書きつづける彼女のことを、わたしは誰よりも信じている。
——堀静香(歌人、エッセイスト)
名著、復活。
向坂くじらデビュー詩集、増補・新装版。
(百万年書房のサイトより)
男の人が
なぜ女の人が自分と寝てくれないのか考えるあいだ
女の人は老いた母から電話がないのを気にしている
老いた母はちょうど猫に話しかけているところで
猫は隣家の子どもを憎らしく思いかえしている
そのとき子どもは家庭教師の目つきから正答をさがそうとし
家庭教師は雇い主に反論する道筋を考えている
雇い主がゴシップの女優の人柄が良いと感心するいっぽう
女優は育ちすぎた亀の始末に手いっぱいになっている
亀は赤んぼうの指を食いちぎることを想像し
赤んぼうには父親が硬いシャツを着るわけがわからない
父親は兄に同性の恋人がいることがゆるせず
兄は恋人の声を思いだしたくてしかたない
そのころ恋人は書店員のまなざしにいたく傷ついたが
それは書店員が
全くだれのことも考えていない時だった
それらのことがみな同じときに起きた
輪郭はみな表面張力を持ってふるえていた
さみしい刺繍のような星の空だ
——星座 / p3より
かなしみは
宅配便ではないから
(悔みのように)
チャイムを鳴らして来たりしない
雪ではないから
屋根という屋根に白くかさなる
(羞恥のように)
ということはない
かなしみは臓器である
肋骨にはすでに
かなしみが根をはり
血を吸いあげては
ふたたび押し巡らせる
わたしは
かなしみを港にした
ひとつの航路図だ
ときどき血のこぼれる
——航路 / p150より
[目次]
星座
キッチン
二十七歳
迷子
四月の昼
月子、ハズゴーン
満潮
サービス
怒りだ
誤認
潮鳴り
トマトポークカレー(もっとも個人的な)
玄関口
牛乳を一杯わけてください
ほしがる
棲みうつる日
ちいさな群れ
城塞
*
変態
子どもたち
区別
線とハサミ
クライスト
踊り
月が欠ける
性的な誘い
目撃
提案
*
あったかくして
波のうつ部屋
君の帰りを待ちながら書いた詩
食いちがう
波のうつ部屋
カウント
水べ
ディナーテーブル
許しが訪れるのを待って
航路
*
死ぬ前の話
窓
ショウ
ベッドタウン・パレード
見せてあげる
ぶん
同い年
肉眼
豊穣
えり子を知りませんか
新しい足
ねえ、おかあさん
とても小さな理解のための
おとなりは
ねずみを殺す
いてもいても
メッセージ・イン・ア・ボトル
詩がどこにもいなかった日
ディスカウント
理解へ(家庭的な解釈)
アンダスタン
青いしっぽ
冬に光る
*
週末